山崎町上寺、大歳(ださい)神社境内の『千年フジ』は、氏子代表の人たちが丹精込めて手入れを続けた甲斐あって今年も順調に成育。この″サンホールやまさきニュース″が皆様のお手元に届けられるころには同神社境内いっぱいに広がるフジ棚から50cm以上にも伸びた花房が、ずらり垂れ下がり、淡いムラサキ色の美しい花を咲かせ、付近一帯に爽やかな甘い香りを漂よわせていることでしょう。
『千年フジ』の大きさは根回り約2.8m、目通り幹回り約3m、樹高約2.8mで幹は十本ほどが束になっている。枝張り面積は約420平方メートルもあり、境内をほとんど覆いつくしている状態。昭和47年、兵庫県の天然記念物に指定され、さらに平成13年、環境省による「かおり風景100選」にも選ばれている。
フジの巨木の直ぐ前に同町教育委員会による兵庫県指定・天然記念物の標示板が建てられているが、このなかに「この藤は天徳4年、上寺の与右衛門が植樹したといわれる」=要旨=と記されている。そこで『千年フジ』についての伝説があるのではないかと思い同神社の宮総代を長い問つとめ、フジの手入れにも努力された同町文化協会の長川耕一副会長宅を訪問。同神社への同行をお願いし、境内でいろいろ語り合った内容と近在の人たちから聞いた話を参考に想像をたくましゅうして『千年フジ』にかかわる伝説をつづってみた。
おお昔のこと。大歳神社近くの村里に心やさしく働きものの与右衛門という若者が住んでいた。15歳になったとき多くの村人たちの祝福をうけ、同神社で元服の式、いまでいう成人式をあげた。そのころ元服した若者は近在にある名山の天辺(てっぺん)に登り、下山するとき必ず山から植物を持ち帰って育成するという風習があった。与右衛門も、この風習に従がって、いまの最上山の頂上に登り、神様に今後の幸運と五穀豊穣を祈願。下山する途中、森の中を歩き回って大きなフジの木を見つけ、その枝を折って帰宅。さっそく畑に挿し木して育てはじめた。
当時、フジは実を火であぶって食べ、ツルはカゴを編んだり、物をしばるのに使うなど用途が多く日常生活に必要性の高い植物だった。そこで元服した若者たちが山から持ち帰る植物のうちフジが多かったようだ。
与右衛門は畑に挿し木したフジの手入れに努め、数年後には樹勢のよい立派な苗木に育てあげた。天徳4年(960年)の春。この苗木を同神社へ持ち込み、そのころ境内中央付近にあった1坪(3.3平方メートル)ほどの池のほとりの適地を選び「大きく生長して、一日でも早く美しい花を咲かせてほしい」との願いをこめて丁寧に植え付けた。
それ以来、約四十年間、与右衛門は水かけ、施肥、剪定などの手入れを続行。フジはグングン生長し毎年、4月下旬から5月初旬にかけて見事な花を咲かせ近在の人たちを大いに楽しませた。与右衛門が天寿をまっとうしたあとは同神社の氏子の人たちが故人の遺志を受け継ぎ、およそ千年、気の遠くなりそうな長期間にわたって手入れ作業を続け、いまのような全国でも屈指の巨木『千年フジ』に育てあげたという。
同神社の「藤まつり」は今年も連休の5月3日から5日までの3日間、盛大に催される。
(2003年5月掲載:山崎文化協会事務局)